映画「PLAN75」感想:ディストピアとしては見れない
映画「PLAN75」の作品情報
放映:2022年 / 112分 / ジャンル: 邦画
原作 / あらすじ
本作が長編映画初監督となる早川千絵のオリジナル脚本。本作は「第44回ヨコハマ映画祭 新人監督賞」「第46回日本アカデミー賞 優秀脚本賞」「第65回ブルーリボン賞 監督賞」他の総数8冠受賞作。
夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。
一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。
また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。
果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは―――。(C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
予告動画
個人的感想・評価
嘘のようなホントの話の真逆。つまり、ホントのような嘘の話なんやけど、いやこれはホントの話やろと思えるほどのリアリティだった。
増えすぎた高齢者を青年が無差別に手をかけたあの事件を連想させるシーンから始まり、超高齢化社会の解決策としてタイトルのプラン75が国によって制定されるといったショッキングなくだり。
安楽死が法律で認められている国はあれど、この作品で表現されたプラン75は職や家・家族や貯えなど個々の理由で生きる希望や意味を失った高齢者に対する肩たたき制度である。
「ありえない、ありえるはずがない!!」…はずなのに、もし日本という国でこの制度が法制化されたとしたらきっとこうなるに違いないと納得させるほどの再現度なのだ。
社会にまん延する自己責任論、公職員の役所対応、高齢労働者への厳しい現実、低所得者層への社会の冷遇、サポートとは名ばかりのマニュアルコールセンター、核家族や身寄りのない独身者の寄り所のなさ等…現代の社会問題が2時間に満たない尺の中に無数に散りばめられている。
主要な登場人物は3人。
- 生き場を失くしプラン75を申請するしかなくなったミチ(倍賞千恵子)
- 遠縁だった身内がプラン75の申請に現れたことで制度に疑問を持ち出した公務員のヒロム(磯村勇斗)
- 申請者のミチと実際に会ってしまった為に、ミチの最期に涙することになるサポセンの瑶子(河合優実)
彼らは「他人の事ならまるで社会平和のための最善策」のように思えていたプラン75が現実として身近で起こった時にそうではないのだと気づくことになるのだけれど…
また、その他の登場人物も含めて言葉として心情は一切語られないにも関わらずおそらくこうだったんであろうという事が観るものにきちんと伝わってきたのが、この作品や俳優陣の演技力の凄いところだった。
引っ張りだこで多彩な顔を見せる磯村勇斗もしかりだけれども、
撮影時に実年齢80歳を越えていたと思われる倍賞千恵子の演技は特に素晴らしく、自分の死の間際に見せた苦悶の表情は忘れられない。
ただ、こんな制度が実際にあったら…というだけでなく、希望もかすかに残すストーリーになっており不安を煽るだけではないのは安心できる。
この作品を単なる「ディストピア系問題作」として観ることはきっと出来ないと思う。これだけのクオリティを初長編で世に出した早川千絵監督の次回作もかなり注目である。
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