映画「ロストケア」:しょうがなかった…そう思いたかった。
映画「ロストケア」の作品情報
放映:2023年 / 114分 / ジャンル: 邦画
原作 / あらすじ
原作は葉真中顕の同名小説『ロスト・ケア』(2013)第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。
監督は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『老後の資金がありません!』などを手掛けた前田哲
早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。
検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。(C)2023「ロストケア」製作委員会
予告動画
個人的感想・評価
原作通りの実写化ではでは無いと思うけれど『絶叫』の原作者と知って納得のストーリー。
なんていうか、底辺の描き方が包み隠さなすぎてえげつないのよね。『絶叫』と本作『ロストケア』の共通点は社会から取りこぼされた孤独な主人公が、犯罪を犯すところなんやけど、どちらも主人公がどん底過ぎて主人公寄りの視点になってしまう。
作中での「人は見たいものしか見ない」というような台詞があるけれど、この作品はまさに「人ができれば見たくない現実」をまざまざと見せつけてくる。
その上、斯波(松山ケンイチ)の認知症と脳梗塞を患った父親 :柄本明の演技が本当にそのものでそれでも甲斐甲斐しく身を削って世話をしていた斯波に嫌が奥にも同情してしまう。
森山直太朗が「さもありなん」と唄うように、「それはもうしょうがないよ」と多くの人が感じると思う。それくらい、閉塞的な世界での孤独な介護は人の何もかもを消耗させてしまう。
けれど、その後の斯波が『ロストケア』と称し介護者と介護される老人を救う為という大義で犯した大量殺人はどうだろう。
私には、斯波に父親への深い後悔と重い自責の念があって、それを正当化するための身勝手な代償行為だったようにしか思えない。
裁判で斯波を「人殺し!」と激しく非難した被害者の娘(戸田菜穂)も、実は斯波の犯行によって介護から開放され安堵した自分を認めたくなかったゆえの行動だったように思えた。(異常な数の殺人行為がまかり通ってしまったのも事件だと訴える遺族がいなかったということだろうなと思う。)
この作品には斯波が当事者であった「ヤングケアラー」問題の他にも、貧困を発端した「年金」「生活保護」「老人受刑者」などの社会問題も差し込まれていて、冒頭の軽犯罪を繰り返し刑務所暮らしを懇願するホームレス老婆が綾戸智恵だったのには驚いた。
「介護する側・もしくは介護される側」や「収入源を無くす」いう生きていれば誰しもが経験するかもしれない不安をテーマにしているので、レビューで「考えさせられる。」という感想が多かったのも納得できる。
正しいと分かっていること・正しいとされる行為を、その通りにできないことの方が実際の人生には多い。人間らしく綺麗に死ねることなんてそうそう無いのだと思うとやるせないなぁ。
斯波の犯行にショックを受けて退職した新人介護ヘルパーが、風俗に転職していたくだりは、介護職と風俗業は似ているという説を思い出した。
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