
映画「かぞくのくに」感想:スーツケースが自由の象徴なんて
映画「かぞくのくに」の作品情報
公開:2012年 / 100分 / ジャンル:邦画
あらすじ
在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督による実体験を基にしたフィクション映画
70年代、帰国事業により北朝鮮へ渡った兄と生まれたときから自由に生きてきた妹、そして兄をかの地に送った両親。
その兄が病気治療のため一時帰国をする。25年ぶりの日本での再会を喜ぶ一家。
ところが、治療も終わっていないにも関わらず、兄は突然の帰国命令を受ける。その時に家族が下した決断とは……。
(C)2011『かぞくのくに』製作委員会
予告動画
映画「かぞくのくに」を観た感想レビュー
在日コリアンの4人家族。監督/脚本のヤン・ヨンヒはこの作品の妹:リエ(安藤サクラ)に当たるそう。
長男のソンホ(井浦新)は一人北朝鮮に渡ったまま日本に残る家族とは会うことが許されず25年もの月日が経っていた。
そんなソンホが、重度の脳腫瘍の治療のため3ヶ月だけ日本への帰国が許され家族は再開するが・・・という話。
映画としては短め(100分)で、巻き返すドラマ的なシナリオは無く、あくまでもドキュメンタリー映画として作られているのが逆に良かった。
日本人が知り得ない在日コリアンの事情
それぞれの事情で在日コリアンとなった人たちがいることは知っていたけれど、その国を祖国に持つことの本当の生きづらさについては何も考えたことがなかったというのが本音。
あの国が「理想郷」と称えられ、豊かな生活が約束されると帰国者を募った歴史があった。
日本で暮らし続ける家族や同郷の仲間はそれぞれの自分の人生を生きていた25年。ソンホは噂できく通りの暮らしを強いられてきたと思われる落差が悲しい。
脳に爆弾をかかえながらも十分な治療を受けることは出来ない国で、何年も出し続けた日本への一時帰国を認められた時にはもう末期。
帰国時も、常に監視役:ヤン同士(ヤン・イクチュン)がつき、25年ぶりの家族の再会といえども本音を話すことすら憚られ、妹:リエ(安藤サクラ)へのスパイ勧誘を強いられるという恐ろしい現実。
大きすぎる力への無力さが苦しい
そして有無を言わせぬ強制帰国命令。
国に残した家族を半ば人質に取られた状態のソンホ。心の底ではおかしいと思っていても、決して意義を唱えることが許されない在日の父母やその同士。
オモニ:母(宮崎美子)が監視役のヤン同志にも、息子と同じスーツを土産に持たせたのは、おそらく「もう二度と会うことが出来ない息子をよろしく頼む」というせめてもの親心だったのだと思うと切なすぎる。
スーツケースは自由の象徴
自分の意思で自由に国から出ることも戻ることも許されることのないソンホにとって、スーツケースは持つ必要すら無い自由の象徴だったのだと思う。
ソンホの「考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうになるからもう考えることを止めた」
ヤン同士の「あなたが嫌いなあの国であなたのお兄さんもわたしも生きているんです。死ぬまで生きるんです」
という言葉が重く残った。
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